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東京高等裁判所 平成5年(行ケ)69号 判決

東京都東久留米市前沢3丁目14番16号

原告

ダイワ精工株式会社

同代表者代表取締役

森秀太郎

同訴訟代理人弁理士

横田実久

東京都千代田区霞が関3丁目4番3号

被告

特許庁長官 清川佑二

同指定代理人

川向和実

藤文夫

吉野日出夫

幸長保次郎

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第1  当事者の求めた裁判

1  原告

(1)特許庁が平成2年審判第17385号事件について平成5年3月16日にした審決を取り消す。

(2)  訴訟費用は被告の負担とする。

2  被告

主文同旨の判決

第2  請求の原因

1  特許庁における手続の経緯

原告は、昭和60年3月29日名称を「釣竿」とする発明(以下「本願発明」という。)について特許出願(昭和60年特許願第66087号)したところ、平成2年7月17日拒絶査定を受けたので、同年9月27日審判を請求し、平成2年審判第17385号事件として審理され、平成4年2月20日出願公告(平成4年特許出願公告第9494号)されたが、特許異議の申立てがあり、平成5年3月16日異議の申立ては理由があるとの決定と共に、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決があり、その謄本は、同年5月6日原告に送達された。

2  本願発明の要旨

補強繊維に熱硬化性合成樹脂を含浸して一体に形成した竿管表面に、リール脚載置部とこれに連続する移動フード緊締用の雄螺子部とを竿管と同質材料で大径肉厚に一体に連続形成し、前記リール脚載置部の前部に固定フードを固着すると共に雄螺子部の谷部の外径を竿管の外径と同等以上に形成し、雄螺子部に移動フードを係着した緊締環を螺合したことを特徴とする釣竿(別紙図面1参照)

3  審決の理由の要点

(1)  本願発明の要旨は、前項記載のとおりである。

(2)〈1〉  本出願前に出願され、本出願後に出願公開された昭和59年特許願第193603号の願書に最初に添付された明細書及び図面(以下「先願明細書」といい、同記載の発明を「先願発明」という、別紙図面2参照)において、

その図面第1図には、竿管表面にリール脚載置部とこれに連続する移動フード緊締用の雄螺子部とを形成し、前記リール脚載置部の前部に固定フードを固着すると共に、雄螺子部に移動フードを係着した緊締環を螺合した釣竿が示されている。

また、その明細書2頁右上欄13行ないし右下欄13行には、上記第1図に示された釣竿の製造方法に関して次のとおり記載されている。

「第1案施例は、固定受体(31)と該固定受体(31)に対し移動可能な可動押体(32)とから成るリールシート(3)を保持する釣竿(1)の前記可動押体(32)保持部位外周にねじ(2)を形成したものである。

しかして、このねじ(2)形成方法は、先ず第2図の如く高強度繊維に合成樹脂を含浸したプリプレグを、緩円錐形芯金(4)の外周に巻回して竿本体(10)を形成するのである。

次に、引揃えた高強度繊維に合成樹脂を含浸したテープ(20)を第3図の如く前記竿本体(10)の外周に、その長さ方向に向って所定の巻回ピッチで螺旋状に巻回して、前記竿本体(10)の外周に螺旋状の補強層(11)を形成し、続いて巻回終端側における前記テープ(20)を集束させ、その幅方向両端部をその中央部に寄せたり、或いは前記テープ(20)を長さ方向にねじったりして紐状に、換言すると断面略U字状又は略円形となるように変形させて一定の巻回ピッチで螺旋状に巻回し、このテープ(20)の幅より狭く、かつテープ厚さより高いねじ山素体(21)を前記竿本体(10)の中間部外周に形成するのである。

そして軸方向のスリットをもち、かっ内周面に前記ねじ山素体(21)に対応する内ねじをもった添筒(5)を、第4図の如くそのスリット部から拡径して前記ねじ山素体(21)部位に嵌合し、前記ねじ山素体(21)を保護した状態で、前記添筒(5)及び外周添筒部位を除く竿本体(10)の外周にセロファンテープ(図示せず)を螺旋状に巻付けて緊縛し、この緊縛により前記竿本体(10)及び補強層(11)を加圧し、この加圧状態で加熱炉で加熱し、この加熱により前記竿本体(10)、補強層(11)及びねじ山素体(21)における合成樹脂を一旦軟化させて硬化させ、補強層(11)及びねじ山素体(21)における合成樹脂を、竿本体(10)における合成樹脂と一体に結合させて、釣竿(1)の中間部外周にねじ山(22)を形成するのである。」

〈2〉  この記載によると、第1図に示された釣竿は、竿管が高強度繊維に合成樹脂を含浸したプリプレグで形成され、また、リール脚載置部とこれに連続する移動フード緊締用の雄螺子部とは高強度繊維に合成樹脂を含浸したテープで形成され、竿管と一体に形成されている。

してみると、先願明細書には、

「 補強繊維に熱硬化性合成樹脂を含浸して一体に形成した竿管表面に、リール脚載置部とこれに連続する移動フード緊締用の雄螺子部とを竿管と同質材料で大径肉厚に一体に連続形成し、前記リール脚載置部の前部に固定フードを固着すると共に雄螺子部に移動フードを係着した緊締環を螺合した釣竿」

の発明が記載されている。

〈3〉  ところで、本願発明と先願発明とを比較すると、本願発明が「雄螺子部の谷部の外径を竿管の外径と同等以上に成形」したのに対し、先願発明がそのように形成されているかどうか明記されていない点で一応相違し、その他の点では一致している。

しかしながら、先願発明では、雄螺子部は竿本体に巻回した補強層で形成されたものであるから、雄螺子部の谷径は、竿管の外径と同等以上に形成されていることは明らかであり、先願明細書には、「雄螺子部の谷部の外径を竿管の外径と同等以上に成形」することは記載されているといえる。

したがって、本願発明は、先願発明と同一であると認められ、しかも、本願発明と先願発明の発明者と同一であるとも、また、本出願時に、その出願人と上記他の出願の出願人とが同一であるとも認められないので、本願発明は、特許法29条の2第1項の規定により特許を受けることができない。

4  審決の取消事由

審決の認定判断のうち、審決の理由の要点(1)は認める、(2)〈1〉は認めるが、〈2〉〈3〉は争う。

審決は、本願発明と先願発明についての一致点の認定を誤り、その結果、本願発明と先願発明とを同一であると誤って判断したものであり、違法であるから、取り消されるべきである。

(1)  先願発明は、高強度繊維に合成樹脂を含浸したプリプレグからなる釣竿にねじを形成する方法に関するものである。その図面第3図には、テープ(20)を竿本体(10)の外周に巻回して補強層(11)を形成すること、竿本体(10)の中間部にはテープ(20)を集束させたり、両端部を中間部に寄せたり、ねじったりして、ねじ山素体(21)を形成することが示されている。図面第1図には、テープ(20)の巻回しによる補強層(11)を、リール脚載置部とその前部である左方の竿本体(10)部分と、ねじ山(22)の左端から竿本体(10)の末端部までの部分に形成したものが示されている。

このように、先願明細書には、竿本体(10)の全面であるリール装着部分を含む全周面にわたりテープ(20)の螺旋状の巻回しによる補強層(11)とねじ山(22)を形成することが記載されており、しかも、先願明細書のどこにもリール装着部分のみ(だけ)にテープ(20)の螺旋状による補強層(11)とねじ山(22)とを形成するものであるとの記載は認められず、これを示唆する記載すら認められない。

これに対し、本願発明は、釣竿に従来使用されていたリールシートを使用することなく、リールを直接装着できる釣竿を提供することにより、釣竿の軽量化、操作性の向上及び強度強化を図ることを目的として、リール装着部分であるリール脚載置部とこれに連続する移動フード緊締用の雄螺子部のみを竿管と同質材料で大径肉厚に形成したものである。そして、本願発明は、リール装着部分をこのように形成することにより、「魚釣り操作した場合における最も負荷の作用するリール装着部分だけを補強して局部的集中荷重にも充分に耐えられるようにして、竿管の割れ、歪み等の損傷発生を確実に防止でき、竿管の軽量化を図りながらその強度と操作性能の一層の向上を図ることができ」(本願発明の特許出願公告公報(以下「本願明細書」という。)4欄19行ないし24行)るという特有の作用効果を奏するものである。

つまり、本願発明は、リール装着部分であるリール脚載置部とこれに連続する移動フード緊締用の雄螺子部のみを大径肉厚に形成しているのに対し、先願発明は、リール装着部分以外の部分まで大径肉厚に形成していて、両者の構成は相違しており、審決がこれを同一であると認定したことは誤りである。

(2)  本願発明のリール装着部分については、その構成として、「竿管1には、その基端部に他部より大径肉厚のリール脚載置部2とこれに連続して同じく大径肉厚の雄螺子3とが竿管1と同質材で一体に形成され、」(本願明細書3欄2行ないし5行)と記載され、その説明の図面第1図の断面図にはリール脚載置部が凹凸のない平滑な面であることが明示され、さらに、作用効果として、「握持した手の掌は常に竿管に接触して魚信を直接かつ敏感に感知でき、魚釣り操作を軽快かつ容易に行うことができる。」(同4欄12行ないし14行)と記載されている。

本願明細書のこの記載から明確なように、本願発明は、リール脚載置部の全周面を均一な大径肉厚に、平滑に形成するものである。

ところが、先願発明では、テープ(20)を螺旋状に巻回して竿管表面に対してテープによる螺旋状の突条を形成するものである。このような螺旋状の突条は、握持した手の掌が突条のみに接触する断片的接触であり、掌全面が竿管に接触しないので、違和感があって握り辛く、微妙な魚信を敏感に感知するという作用効果を奏することができない。

つまり、本願発明は、リール脚載置部の全周面を均一な肉厚に形成しているのに対し、先願発明は、リール脚載置部を軸方向に連続した凹凸状部をもったものに形成していて、両者の構成は相違しており、審決がこれを同一であると認定したことは誤りである。

(3)  審決は、このような事実誤認の認定をもとに本願発明と先願発明とを比較し、両者の相違点は、雄螺子部の谷部の外径が竿管の外径と同等以上に成形することが明記されているか否かの点のみと認定したのであって、誤りである。

第3  請求の原因に対する認否及び被告の主張

1  請求の原因1ないし3は認める、同4は争う。審決の認定判断は正当であり、審決に原告主張の違法はない。

2(1)  原告は、先願明細書の第1図には、竿本体(10)の全面であるリール装着部分を含む全周面にわたりテープ(20)の螺旋状の巻回しによる補強層(11)とねじ山(22)が形成されており、しかも、先願明細書のどこにもリール装着部分のみ(だけ)をこのように形成するとの記載は認められず、これを示唆する記載もないから、本願発明の特徴であるリール脚載置部とこれに連続する雄螺子部のみを大径肉厚に形成した構成は、先願明細書に記載されていない旨主張する。

しかしながら、先願明細書の第1図のみを表面的にみれば、原告の主張するような見方もできないことはない(特に、リール装着部分以外にもテープ(20)又は凹凸が存在する点)が、このような見方は、該図面に関する先願明細書の記載(特に、その製造方法)を全く無視したものである。

すなわち、先願発明は、「釣竿におけるねじの製造方法」に関するものであって、この第1図は、ねじの形成方法を中心として説明されている関係上、リール装着部分以外の箇所の説明に説明不足のところがあるのは否めない事実であるから、この第1図におけるリール装着部分以外の箇所については、発明の詳細な説明に記載されているねじの形成方法等の釣竿の製造方法を参酌して理解すべきである。

このような観点から先願明細書の第1図に示された釣竿の製造方法についてみるに、特に、ねじ山素体(21)の形成方法は、テープ(20)を竿本体(10)に巻回した後、巻回し終端側におけるテープ(20)を集束させ、その幅方向に両端部をその中央部に寄せたり等して、テープ(20)の幅より狭く、かつテープ厚さよりも高いねじ山素体(21)を竿本体(10)の中間部外周に形成する旨記載されている。このように、竿本体(10)に巻回したテープ(20)は、ねじ山素体(21)を形成させるために、中間部に寄せて集束され、このために、中間部が肉厚になると解される。

このようなねじ山の形成方法からして、補強層(11)を形成させた後は、最初に竿本体(10)に巻回させたテープ(20)は、ねじ山(22)及び補強層(11)の両側に一部残存するものの、この箇所の残存テープは、前記のような集束手段により、ねじ山素体(21)(ねじ山(22))及び補強層(11)が形成された箇所、すなわち、リール装着部分と同じ厚さではなく、この部分より薄くなっているとするのが技術常識である。

そして、先願明細書には、リール装着部分以外の箇所にも、ねじ山(22)と補強層(11)を形成させなければならないとするに足りる記載は何ら見いだし得ないし、また、このようなことは、技術的にみても特に必要はないと解するのが合理的である。

したがって、先願明細書に記載された第1図のねじ山(22)と補強層(11)とは、リール装着部分のみに形成されていると解するのが技術的にみて正しい見方であり、この点に関する原告の主張は採用できない。

(2)  原告は、本願発明のリール脚載置部は、その全周面を均一な大径肉厚に形成しているのに対し、先願発明ではテープによる螺旋状の突条を形成していて、リール脚載置部自体も明確に相違し、この螺旋状の突条は、握持した手の掌が突条のみに接触する断片的接触であり、掌全面が竿管に接触しないので、違和感があって握り辛く、微妙な魚信を敏感に感知することはできない旨主張する。

しかしながら、このような原告の本願発明のリール脚載置部についての主張は誤りである。

すなわち、本願発明の特許請求の範囲から明らかなように、本願発明のリール脚載置部は、(これに連結する移動緊締用の雄螺子部とを)竿管と同質材料で大径肉厚に一体に連続形成したものであるとされているだけであって、大径肉厚に一体形成する場合、何もリール脚載置部全周面を均一にするとはいっていない。

このことは、本願発明のリール脚載置部の一体形成法についてみるに、このものが先願発明のような、テープを螺旋状に巻回して補強層を設けるという方法を排除しているとするに足る記載が何ら見いだし得ないことからも、いえることである。

原告は、本願発明のリール脚載置部が全周面を均一な大径肉厚に形成することを意味するものと解することの根拠として、第1図及び原告指摘の明細書の記載をあげている。しかしながら、特許請求の範囲に前記のように限定されたリール脚載置部について、このような実施例と作用効果の記載の存在をもって「全周面が均一」であると解することには、飛躍がありすぎ、このような解釈は、合理的でない。

なお、先願発明の釣竿も、テープを巻回した後加熱焼成して一旦軟化させて硬化させるものであるから、巻回されたテープは竿本体と一体化されるものであって、この釣竿も、上記原告の主張するような作用効果を奏するものである。

(3)  以上のとおり、審決には原告の主張するような事実誤認はなく、本願発明は先願発明と同一であるとの認定判断に違法性はない。

第4  証拠関係

証拠関係は、本件記録中の書証目録記載のとおりであるから、ここにこれを引用する。

理由

第1  請求の原因1(特許庁における手続の経緯)、同2(本願発明の要旨)、同3(審決の理由の要点)は、当事者間に争いがない。

第2  そこで、以下原告の主張について検討する。

1  成立に争いのない甲第6号証(平成4年特許出願公告第9494号公報)によれば、本願明細書には、本願発明の技術的課題(目的)、構成及び作用効果について、次のとおり記載されていることが認められる。

(1)  本願発明は、釣竿に関する。(1欄12行)

(2)  従来の技術では、釣竿にリールを装着する手段としては、筒状のリールシートを釣竿に嵌着固定し、該リールシートを設けた固定フードと移動フード間にリール脚を装着しているのであるが、リール装着部分を握持した釣人の手はリールシートを掴むことになり、直接竿管に触れないので魚信(魚のあたり)を敏感に感知できないと共に、握持し辛く、また、長期使用している間にリールシートが釣竿から剥離する等の欠陥がある。

このため、釣竿自体の表面に直接リールを装着するようにしたものが昭和51年特許出願公開第3989号公報で知られているが、釣竿の強度、魚信の感知、操作性能等に関する配慮は全くなされていない。

リール脚装着部分は、魚釣り操作中最も負荷が作用するので、これに耐え得るようにリール脚装着部の竿管の肉厚を厚くしてその強度を強化しなければならず、その結果、釣竿重量が増加し、魚信の感知性は低下し、また、釣竿操作もし辛くなる問題点が生ずる。(1欄19行ないし2欄15行)

(3)  本願発明は、釣竿にリールシートを使用することなく直接リール脚を装着できるようにして、釣竿の軽量化と操作性の向上を図ると共に、直接リール脚を竿管に装着しても、充分にその強度に耐えられるような釣竿を提供することを目的とし、要旨記載の構成(1欄2行ないし9行)を採用した。(1欄12行ないし17行、2欄17行ないし20行)

(4)  本願発明は、竿管のリール装着部分のリール脚載置部と雄螺子部とを同質材料で一体の大径肉厚に形成し、前記リール脚載置部前部に固着した固定フードと雄螺子に螺合せる緊締環に設けた移動フードとの間の竿管上に直接リール取付脚を装着できるようにしたので、釣竿重量の軽量化を図ることができると共に、釣竿を握持した手の掌が常に竿管に接触して魚信を直接かつ敏感に感知でき、魚釣り操作を軽快かつ容易に行うことができる。

特に、リール脚載置部とこれに連続する雄螺子部分は、肉盛りによって一体の大径肉厚に形成されると共に、雄螺子は、その谷部径が竿管の外径と同等以上に形成されているので、リール脚を直接竿管に装着し魚釣り操作した場合における最も負荷の作用するリール装着部分だけを補強して局部的集中荷重にも充分に耐えられるようにして、竿管の割れ、歪み等の損傷発生を確実に防止でき、竿管の軽量化を図りながらその強度と操作性能の一層の向上を図ることができ、しかも、従来のリールシート接着方式の如く長期使用している間の温度変化や衝撃、繰返しの撓み等によって剥離することもない等の優れた特徴を有する。(4欄6行ないし27行)

2(1)  原告は、先願明細書のどこにもリール装着部分のみ(だけ)にテープ(20)の螺旋状による補強層(11)とねじ山(22)とを形成するものであるとの記載は認められず、これを示唆する記載すら認められないから、本願発明の特徴であるリール脚載置部とこれに連続する雄螺子部のみを大径肉厚に形成した構成が先願明細書に記載されているとすることは誤りである旨主張する。

〈1〉 まず、本願発明についてみると、その特許請求の範囲には、「リール脚載置部とこれに連続する移動フード緊締用の雄螺子部とを竿管と同質材料で一体に連続形成し」と記載されており、当業者がこの記載に接した場合、この記載自体からはもとより、特許請求の範囲全体の記載を参酌しても、本願発明がリール脚載置部とこれに連続する移動フード緊締用の雄螺子部のみを大径肉厚に一体に連続形成したものに限定されるものでるかどうか一義的に明確に理解することができない。そこで、本願明細書の発明の詳細な説明を参酌してその技術的意義を検討すると、本願明細書には、本願発明の目的について、釣竿にリールシートを使用することなく直接リール脚を装着できるようにして、釣竿の軽量化と操作性の向上を図ると共に、直接リール脚を装着しても、充分にその強度に耐えられるような釣竿を提供することを目的とする旨記載されていること、また、その作用効果として、魚釣り操作した場合における最も負荷の作用するリール装着部分だけを補強して局部的集中荷重にも充分に耐えられるようにして、竿管の軽量化を図りながらその強度と操作性能の一層の向上を図ることができる旨記載されていることは、前記1認定のとおりであり、さらに、前掲甲第6号証によれば、本願発明の実施例として、第1図(別紙図面1)記載のとおりリール脚載置部とこれに連続する移動フード緊締用の雄螺子部のみを大径肉厚に一体に連続形成したものが示されていることが認められる。

以上認定の本願明細書の記載事項を参酌すると、本願発明において、その意図する目的を達成するためには、リール装着部分だけを補強する構成とする必要があり、本願発明は、そのために特許請求の範囲記載の「リール脚載置部とこれに連続する移動フード緊締用の雄螺子部とを竿管と同質材料で一体に連続形成し」との構成を採用したものであるから、リール脚載置部とこれに連続する移動フード緊締用の雄螺子部とのみを大径肉厚に一体に連続形成した構成に限定されるものというべきである。

〈2〉 次に、先願発明についてみると、先願明細書に、第1図(別紙図面2)に示された釣竿の製造方法に関して審決の理由の要点(2)〈1〉摘示の事項が記載されていることは当事者間に争いがなく、成立に争いのない甲第7号証(昭和61年特許出願公開第70934号公報)によれば、この記載事項に第1図(先願発明の方法で形成したねじの使用例を示す一部を省略した拡大切欠断面図)を参酌すると、先願明細書の第1実施例記載のものは、補強層(11)が竿管のねじ環(33)、リール脚緊締用可動押体(32)及びリール脚の固定受体(31)の間のリール装着部分のみでなく、これ以外の部分にまで形成されていることが認められる。

しかしながら、前掲甲第7号証によれば、先願発明は、名称を「釣竿におけるねじの形成方法」とする発明(1頁左下欄3行)であって、従来の釣竿にねじを形成する方法では、釣竿とは別に形成した筒状アダプターを用いるものであるから、釣竿の重量増加が大きく、一定位置にねじを設けることが難しい問題があり、また、長期間使用すると、接着剤が劣化してアダプターが抜け出たり、釣竿との接合部にガタ付きが生じたりする問題があった欠点を改善することを目的として、特許請求の範囲の構成、すなわち、「高強度繊維に合成樹脂を含浸したプリプレグから成る釣竿にねじを形成する方法であって、前記釣竿を構成する竿本体の周面に、高強度纎維に合成樹脂を含浸して成るテープを所定の巻回ピッチで螺旋状に巻回して、前記竿本体の周面から段状に突出するねじ山素体を形成し、前記竿本体の加圧焼成時、前記ねじ山素体を竿本体に一体的に結合してねじ山を形成したことを特徴とする釣竿におけるねじの形成方法。」(1頁左下欄5行ないし13行)とする構成を採用したものであることが認められ、第1実施例のようにリール装着部分以外の部分にテープを巻回して大径肉厚部を形成する構成に限定する記載はなく、前記認定の先願発明の目的を達成するための構成を考慮すると、ねじを形成すべき箇所のみを大径肉厚にすれば足りるものであるから、当業者であれば、竿本体の周面にテープを巻回すに当たり、重量増を考慮してテープをリール装着部分にも巻回すことなく、リール装着部分にのみ巻回してリール装着部分にのみ大径肉厚部(第1実施例における補強層(11))を形成することによって、充分にその目的を達成できるものであることは、容易に理解できるものというべきである。

そうであれば、先願発明は、本願発明と同じく、リール脚載置部(第1実施例におけるリール脚の固定受体(31)とリール脚緊締用可動押体(32)の間の竿本体部分)とこれに連続する移動フード緊締用の雄螺子部(第1実施例におけるねじ山(22))とのみを竿管と同質材料で大径肉厚に一体に連続形成する構成を含むものというべきである。

〈3〉 したがって、本願発明と先願発明とは、「リール脚載置部とこれに連続する移動フード緊締用の雄螺子部とを竿管と同質材料で一体に連続形成」する構成において一致するとした審決の認定に誤りはない。

(2)  原告は、本願発明は、リール脚載置部の全周面を均一な大径肉厚に、平滑に形成するものであるところ、先願発明では、テープを螺旋状に巻回して竿管表面に対してテープによる螺旋状の突条を形成するものであり、リール脚載置部の構成が明確に相違している旨主張する。

しかしながら、当事者間に争いがない本願発明の特許請求の範囲には、このことについて「リール脚載置部とこれに連続する移動フード緊締用の雄螺子部とを竿管と同質材料で大径肉厚に一体に連続形成し、」との記載があるのみであり、リール脚載置部の全周面を均一に形成することについては、何も記載されていない。

原告が主張するように、本願明細書の第1図の断面図にリール脚載置部が凹凸のない平滑な面のものが示されており、その作用効果として、「握持した手の掌は常に竿管に接触して魚信を直接かつ敏感に感知でき、魚釣り操作を軽快かつ容易に行うことができる。」(同4欄12行ないし14行)と記載されていることは認められるけれども、上記図面及び記載をもって特許請求の範囲を限定することはできないし、そもそも原告が主張するような作用効果は、本願発明において、釣竿にリールシートを使用することなく、直接リール脚を装着できるようにしたことにより達成し得るものであると認められる。

したがって、本願発明の要旨とする構成が前記構成に限定されることを理由として先願発明と構成に差異があるとする原告の主張は、本願発明の要旨に基づくものではなく、その前提において誤りがあり、失当である。

(3)  以上のことからして、審決の本願発明と先願発明との一致点の認定に誤りがあるとすることはできない。

したがって、本願発明と先願発明の構成が同一であるとした審決の認定判断に誤りはない。

3  そうすると、原告の主張する審決の取消事由は、いずれも理由がなく、審決に原告主張の違法はない。

第3  よって、原告の本訴請求は理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条、民事訴訟法89条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 竹田稔 裁判官 関野杜滋子 裁判官 持本健司)

別紙図面1

図面の簡単な説明

第1図は本発明の縦断正面図、第2図は第1図Ⅰ~Ⅰ線断面図、第3図は本発明要部の縦断正面図、第4図乃至第7図は夫々本発明の釣竿の製造工程を示す説明図である。

1……竿管、2……リール脚載置部、3……雄螺子、4……固定フード、5……移動フード、6……緊楴環。

〈省略〉

別紙図面2

図面の簡単な説明

第1図は木発明の方法で形成したねじの使用例を示す一部を省略した拡大切欠断面図、第2図乃至第4図は本発明形成方法の一例を示す説明図、第5図及び第6図は別の使用列を示す一部を省略した拡大切欠断面図、第7図乃至第10図は別の形成方法を示す説明図である.

〈省略〉

〈省略〉

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